層流から乱流への遷移過程を観察すると,弱い気流乱れのもとで線形不安定波動の成長から始まるにせよ,強い乱れの元で局所的な乱流斑点が出現するにせよ,乱流構造が形成されるまでには壁近くに低速・高速域が並んだストリーク構造が現れる.ストリーク構造は成長するとそれ自身不安定になり壁乱流を支配する縦渦あるいはヘアピン渦の発生に導き,それらはさらに粘性散逸スケールの要素渦へのカスケードを伴いながら乱流に遷移する.また,ストリーク構造は,乱流境界層の壁近くの組織構造として知られており,乱れの生成維持機構を考える上でのキー構造として位置付けられている.本研究では,このような乱流構造の生成維持を支配する2つの素過程を調べている.一つはストリーク不安定であり,もう一つは乱流変動によるストリーク構造の生成である.
平板上の層流境界層に境界層排除厚さ程度の高さ一つの小さな網片を壁に垂直に立て,その抵抗を利用して単一の低速ストリークを生み出し,それに周期撹乱を与えてストリーク不安定性ならびに増幅モードの組織渦構造への発達を実験的に調べている.ストリーク不安定には,壁に垂直方向の変曲点型速度分布のケルビン・ヘルムホルツ不安定に支配されるVaricoseモードと,スパン方向の後流型速度分布の不安定性に支配されるSinuousモードの2種類のモードが存在する.図は,それらの不安定特性とそれらのモードが成長しそれぞれヘアピン渦と縦渦列の組織渦構造へと発展する様子を示している.[Asai M, Minagawa M & Nishioka M, J. Fluid Mech. 455 (2002) 289-314]
次に,網片を周期的に配置することによりスパン方向に周期的な低速ストリーク構造を生成し,周期低速ストチーク構造の不安定性と遷移を実験的に調べた.周期低速ストリークにおいてはVaricoseモード,Sinuousモードそれぞれについて,すべての低速ストリークで同位相の振動を示す基本モードと,隣り合うどうしの低速ストリークが逆位相で振動する分調モードの2種類の不安定モードが励起される.それらの不安定特性と共に,これまで観察されていない分調不安定モードによる乱流への遷移過程が詳細に調べられた.可視化写真は分調Sinuousモードの成長と乱流への遷移家庭を示している.[Konishi Y & Asai M, Fluid Dynamics Research, 34 (2004) 299-314: Konishi Y & Asai M, Fluid Dynamics Research, 42 (2010)] 035504
ストリーク構造の生成過程に関しては,壁面吸込みにより乱流抑制された境界層の再遷移過程に注目する.乱流境界層に壁面から吸込みを行なえば壁近くの乱流変動が抑制され層流化が起きる.壁近くの一旦層流化された流れは上流から流下する残留乱流変動により再び遷移するが,その過程で観察される低周波の低速ストリークの生成機構・過程や成長したストリーク構造の縦渦への崩壊過程を実験的に調べている.残留乱流変動により生成される(過渡増幅)低速ストリークの間隔は成長の初期段階から乱流境界層中のストリーク間隔に近く,下流でのストリークの崩壊は不安定に基づくことが示され,そのストリーク不安定の特性は,壁乱流DNSから抽出された代表的なストリークに対して安定性解析された結果に非常に近いことも見出された.[Asai M, Konishi Y, Oizumi Y & Nishioka M, J. Fluid Mech. 586 (2007) 371-386]