二次元物体後流では,円柱後流のカルマン渦列に代表されるように,非常に規則的な渦放出を伴う.このような規則的な渦放出は,円柱後流近傍において,速度分布が逆流を伴う強い変曲点型分布となっていることに起因しており,そこである特定の周波数の撹乱が移流することなく時間的に増幅することによって,周期的な流れに遷移する.このような撹乱の時間増幅の性質は絶対不安定性と呼ばれ,その存在は周期流への分岐,すなわち全体不安定性が生じるための必要条件である.
本研究の対象である軸対称物体の後流においてもその不安定性が振動流に導き,最も典型的な球の後流では,レイノルズ数が約280を超えると自励振動が始まり,絶対不安定性の現れによる全体不安定が起きることが見出されている.一方,流線形の細長物体の場合には,後縁近傍における逆流領域は小さいか或いはほとんど生じないため,撹乱増幅は絶対不安定ではなく移流不安定に支配されることが,実験と線形安定性計算により示されている.では,流線形軸対称物体の直径を増し鈍体へ近づけていくとき安定性がどのように変化していくであろう.本研究では,断面形状がNACA0015翼型,NACA0018翼型,NACA0024翼型からなる3種類の厚み(最大径)を変化させた軸対称模型を用い,後流における不安定モードの発達を実験と線形安定性解析により調べている.
なお,軸対称物体後流の実験においては,模型支持に使われるストラットやワイヤなどの影響を排除するため,JAXAの磁力支持天秤装置を備えた風洞を用いて行われている.研究成果は,J. Fluid Mechanics (2011)に掲載されました.
高速輸送機の主翼形態である後退翼の層流化で問題となるのは,三次元境界層の横流れ不安定である.外部流線と直角方向の横流れは外部流線と圧力勾配の方向が異なることにより生じるので前縁近くの境界層が特に重要であり,後退角の増加とともに横流れ不安定が遷移の主要因となる可能性が高まる.この三次元境界層の安定性に対する横流れ速度成分の大きさとマッハ数の影響について線形安定性解析により調べられた.
定性解析に用いた基本流は,Falkner-Skan-Cooke境界層の相似解を圧縮性境界層に拡張したものである.横流れ速度成分が主流の10%の大きさをもつ境界層分布に対して計算された波動撹乱の空間増幅率の一例であり,波面角70°と80°の撹乱に対する増幅率の周波数依存性を示している.横流れ速度が十分大きな三次元境界層においては,マッハ数Me=2の場合でも最大増幅率は非圧縮時の値から10%程度減少するだけであり圧縮性は不安定性に大きな影響を与えない.
動型撹乱に対してと同様に,圧縮性三次元境界層の定在モード(横流れ渦)に対する安定性についても調べている.図は,横流れ不安定の定在モードに対する臨界レイノルズ数と横流れ速度の大きさの関係を示していて,横流れ速度が主流速度の1%を超えただけで不安定となることがわかる.また,最大増幅の定在モードは波面角は85°程度であり,マッハ数の影響をほとんど受けない.
零圧力勾配の二次元圧縮性境界層における点源からの撹乱伝播が,Whithamの波動理論に基づく伊藤の複素特性曲線法により調べられた.図は,マッハ数0.2の低亜音速流とマッハ数2.0の超音速流における波動型撹乱の伝播の比較である.亜音速境界層では,励起された波動の最大増幅がスパン中心線に沿って起き下流で二次元波動に近づいていくのに対し,超音速境界層では斜行波対の形でのまま増幅しスパン中心から離れた位置で最大振幅となる.